先進医療と患者負担を考える

健保連が行う平成28年度の『高額医療交付金交付事業』に申請された医療費のうち、1ヵ月の医療費が1,000万円以上の件数は、前年度より123件増加(対前年度比34.1%増)の484件で過去最多となり、初めて400件を超えた。

健康保険組合から「平成28年度 高額レセプト上位の概要」が発表されました。

1000万円以上高額レセプトの件数が年々増えています。

寿命が長くなり、高額療養をうける人が増えていることだけでなく、保険適用の治療法が増えたことが増加の理由ではないでしょうか?

高額医療交付金は、財源である財政調整事業拠出金収入の範囲内で交付決定を行うものであり、申請金額が財源を超えた場合、財源不足分を調整するための交付率を算出する方式となっています。

今まで保険適用外であった治療に保険が適用されることになれば、その治療を受けている患者にとっては自己負担が劇的に減ることになります。今までは費用が高額なため治療が受けられなかった患者にもその治療が受けられる可能性が出てくるのです。

一方、財源が増えない場合、全体として高額医療の適用金額が増えれば増えるだけ、財源不足の調整のために交付率がどんどん下がっていき、今まで保険適用だった治療を受ける方にとっては一人当たりの自己負担額が増加してしまいます。

検査費用に保険が適用されるかどうかも患者の負担に大きな影響を及ぼします。

先日公表された「がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会(報告書案)」では、がんゲノム医療の制度・費用面について、患者の負担軽減のため、検査費を保険診療として実施すると明記しています。
しかし、まだ制度の詳細は不明です。
もし他の先進医療と同じように保険外併用療養の枠組みでの利用となれば、技術料部分は全額自己負担となり、患者の負担額が高額になってしまいます。

民間保険に関しては、日本再生医療学会は、自由診療で行う再生医療を対象とする新たな保険制度「再生医療サポート保険(自由診療)」を創設しました。
細胞の採取や注入等再生医療等の治療により健康被害が起こった場合、医師に過失がない場合でも、健康被害の程度に応じての補償を備えたものです。
患者側が安心して再生医療を受けられる体制作りの一環としてとらえることができます。

近頃は、インターネット等、免疫細胞療法に特化した少額保険等も目にするようになってきました。
これらは、免疫療法に限らず、これからもどんどん増えてくるであろう最先端の治療を、患者が自由にいち早く利用できるよう、まとまった保障が必要であるというコンセプトのもとに開発された保険商品です。

このように、社会の仕組みは、患者が安心して高額な治療を受けられる体制が整うように進化しています。

今、免疫療法を考える

国立がんセンターのWebサイトで、「免疫療法 まず、知っておきたいこと」が紹介されています。

私たちの体は、免疫によってがん細胞を排除しているのですが、免疫が弱かったり、がん細胞が免疫にブレーキを掛けたりすることにより、がん細胞を異物として排除しきれないことがあります。
私たちの体は、免疫によってがん細胞を排除しているのですが、免疫が弱かったり、がん細胞が免疫にブレーキを掛けたりすることにより、がん細胞を異物として排除しきれないことがあります。
免疫療法は、免疫本来の力を回復させることによってがんを治療する方法で、近年注目されており、研究が進められています。
これまでの研究では、残念ながらほとんどの免疫療法では有効性(治療効果)が認められていません。現在、臨床での研究で効果が明らかにされている免疫療法は、「がん細胞が免疫にブレーキをかける」仕組みに働きかける免疫チェックポイント阻害剤などの一部の薬に限られ、治療効果が認められるがんの種類も今はまだ限られています。
「免疫療法(広義)」は発展途上の治療法で、有効性(治療効果)が科学的に証明されていない免疫療法も多数あります。効果が明らかになっていない治療法は、保険診療として認められていないことから、患者が全額治療費を支払う自由診療として行っている医療施設もあります。
患者さんやご家族が、標準治療が使えなくなるなど治療の選択に困り、自由診療でのがん免疫療法(広義)を選択肢として考えるときには、その選択をする前に公的制度に基づく臨床試験、治験などの研究段階の医療を熟知した医師にセカンドオピニオンを求めることをお勧めします。

日本再生医療学会のWebサイトでも、「日本再生医療学会より、国民の皆様へのお知らせとお願い」で、以下のように注意を喚起しています。

下記のよう場合には、勧められても安易に受けることはせず、事前に適法性と安全性・有効性を十分に確認することをお願いいたします。

1 さい帯血※や脂肪細胞のように、他人から採取した細胞を移植する行為

1 日本再生医療学会の認定医が勤務していない機関での細胞を移植する行為

1 その他、安全性確保法に基づいて実施していることが確認できない行為

これらの注意喚起は、安全確保がされている免疫療法かどうかに対するものであり、免疫療法そのものに対する疑義ではないということを意識していただきたいです。

そして、適切な免疫療法を安心して選択できるように、セカンドオピニオンを得られ医師の紹介も含め、正確な情報を患者さんやご家族が得られる「仕組み」が必要だと思います。

研究が進むにつれ、安全性も高く有効な治療法がどんどん増えてきます。対応できるがん種類も拡がってくるでしょう。

海外では、手術、抗がん剤、放射線、に並ぶ、第4の治療法として免疫治療は認識されているところも多いです。

日本でも、第4の治療法として認知されているところに、今年の夏、逆風が吹きました。

厚生省が免疫細胞の無許可加工をしていた加工施設及び医療機関の存在を明らかにしたのです。

このことが世間に与えた影響は非常に大きいです。
正規に許可された加工施設か否かにかかわらず、免疫療法全体に疑いの目が向けられるようになったからです。

「Carlyからお役立ち情報」でも何度か取り上げた「がん治療拠点病院」に対しても、厚生省は全国で434の病院に対して免疫療法の実態調査を行うとしています。
しかし、この「がん治療拠点病院」は、許可も受けており、設備や体制が整っているので問題性は低いのではないでしょうか?

それよりも、設備や体制がそれほど整っていない医療機関で免疫療法を行うところに問題が起こり得えます。むしろ、実態調査は、「がん治療拠点病院」よりも、これらの医療機関に対して行う必要があり、それが有益であるはずです。

また、現在は保険診療の対象外となっている治療法の中にも、今後は保険対象になる治療法もあるでしょう。これらを普及していくためにも、国としての「仕組み」の必要性を感じます。

そして、医療機関の実態調査により「不適切な治療」を明らかにして撲滅し、患者さんやご家族が「正確な情報を得られる仕組み」によって十分に治療法を理解した上で、適切な選択肢を得られる社会が理想です。