今更聞けない「再生医療って何?」

最近、よく耳にするようになった「再生医療」というキーワード。
なんとなくのイメージはあるが、意味までしっかり理解している人ばかりではないと思います。
そこで、「Carlyからお役立ち情報」として「再生医療」について解説致します。

「再生医療」という言葉について、厚生労働省は下記のように定義しています。

■生きた細胞を組み込んだ機器等を患者の体内に移植等すること又は内在性幹細胞を細胞増殖分化因子により活性化/分化させることにより、損傷した臓器や組織の自己再生能力を活性化することで失われた機能を回復させる医療(広義)。

■患者の体外で人工的に培養した幹細胞等を、患者の体内に移植等することで、損傷した臓器や組織を再生し、失われた人体機能を回復させる医療。

■患者の体外において幹細胞等から人工的に構築した組織を、患者の体内に移植等することで、損傷した臓器や組織を再生し、失われた人体機能を回復させる医療。

つまり、人(生物)の再生能力を活かした医療ということです。

では、具体的にはどんなものなのなのでしょうか?
いくつか例を挙げてみましょう。

人工多能性幹細胞(iPS細胞)(Induced Pluripotent Stem Cell:iPS cell)によるもの

人工多能性幹細胞(iPS細胞)とは、体のあらゆる組織や細胞に分化可能な多機能生を持った細胞株のことで、拒絶反応のない移植細胞として利用することもでき、再生医療の分野では大きく注目されています。
2006 年に京都大学の山中伸弥教授らのグループによって世界で初めて作成されました。
ニュースでも良く取り上げられているので、耳にすることが多いのではないでしょうか?
2007年にヒトでも同様の細胞を作製することに成功しています。

しかし、分化誘導期間(多能性幹細胞であるiPS細胞から求める細胞を作製する期間)が長いこと、分化効率が向上しないことによる移植後のがん化の危険性があること等、課題が残っています。

2017年10月、「日本人グループにより3つの小分子化合物を用いてヒトiPS細胞の分化能力を促進する基盤技術が開発された」というニュースが国際幹細胞学会(ISSCR)の公式ジャーナルである「Stem Cell Reports」のオンライン版に掲載されました。

この技術によって、分化誘導期間の短縮と分化効率の上昇により、これまで多大な労力・時間を要していた厳正な細胞株選別が不要になり、iPS細胞を用いた病態研究・創薬スクリーニングの効率を大きく上昇させることが期待できます。
また、誘導効率の上昇により、移植後のがん化の危険性も減少することが期待されています。


胚性幹細胞(ES細胞)(Embryonic Stem Cells)によるもの

胚性幹細胞(ES細胞)とは、iPS細胞と同様に、体のあらゆる組織や細胞に分化可能な多機能生を持った細胞株です。
iPS細胞との違いは、体細胞ではなく、肺の内部細胞塊を用いて作製されるという点です。
胚様体には各成熟細胞や組織の基になる未成熟な細胞が豊富に混在していることから万能細胞ともいわれています。

1981年にイギリスのエヴァンスがマウスES細胞を樹立したのがその始まりです。
ヒトES細胞は、1998年に作製されました。

ES細胞を作るには卵細胞が必要なのですが、ES細胞の作製効率が非常に低いため、多くの卵細胞が必要となるという倫理上の問題、移植患者とは遺伝子が異なるため拒絶反応が起こる可能性があるという医療上の問題が指摘されてきました。

2017年9月、マウスのES細胞から卵子の元になる「卵母細胞」を作ることに、日本人研究グループが成功したと国際科学誌で発表されました。
これによって従来必要だった卵巣細胞を使用せずに卵子を作る可能性が出ています。


間葉系幹細胞(MSC)(Mesenchymal Stem Cell)によるもの

間葉系幹細胞(MSC)とは、中胚葉性組織(間葉)に由来する体性幹細胞であり骨芽細胞,脂肪細胞,筋細胞,軟骨細胞など間葉性に属する細胞への分化能を有します。

1991年にアメリカのカプランによって定義されました。

現在、臨床応用のための源として、骨髄が用いられています。
iPS細胞やES細胞のようにどんな細胞にも分化することはできませんが、免疫抑制作用も併せ持つことからがん化の危険性が低く安全と言われています。
最近では神経や腎臓、膵臓(すいぞう)などにも分化できることが分かってきました。
他家細胞(他人の細胞)による膝軟骨の再生医療の治験が2017年9月に始まったというニュースが流れました。


これら細胞研究の進歩によって、新たな治療法の確立や治療の臨床応用が実現し、再生医療が広く普及することが期待されています。

再生医療のグローバルスタンダード化が進んでいます

2017年10月、京都市で「薬事規制当局サミット」(Summit of Heads of Medicines Regulatory Agencies)と「薬事規制当局国際連携組織」(ICMRA:International Coalition of Medicines Regulatory Authorities)の会合が開かれました。

2006年に始まった同サミットは毎年開催されており、日本では初めての開催です。

一方ICMRAは2012年から活動を開始し、国際連携プロジェクトを実施してきました。来年の2018年からは両者が統合され、ICMRAサミットとして開催される予定です。

それぞれのサミットや組織の目的は以下の通りです。

薬事規制当局サミット:
医薬品・医療機器制度の在り方、審査手続き、市販後調査等の課題について意見交換する場。

薬事規制当局国際連携組織:
国際活動の優先順位や活動の重複による無駄の排除等を議論する場。

つまり、各国でも規制が整っていない今、最初からグローバルスタンダードを作ろうという動きです。

今年は、日、米、欧、中、ブラジルなど30を越える国と地域の薬事規制当局の責任者が参加し、医薬品・医療機器・再生医療等のイノベーションを主要テーマとし、薬事規制の在り方、審査手続き、市販後調査、製品の安定供給、危機管理等の様々な課題について意見交換が行われ、再生医療等製品に関する規制の調整を各国間で進めることなどが決まりました。

また、リアルワールドデータ(RWD: Real World Data)についても、収集、標準化、エビデンスへの利用等につきさらなる検討が必要だという議論もありました。

リアルワールドデータ(RWD)とは、実診療行為に基づくデータ、またはそのデータベースのことで、レセプト(診療報酬請求)や、DPC(包括医療費請求)データ、診療録(電子カルテ)、健診データなどが扱われています。

これまで新薬承認に際しては、大規模な患者集団を対象としたランダム化比較試験(RCT)が行われるのが常でしたが、信頼性が高い一方で、時間もコストもかかるため、価格に影響を与えていました。

その点、RWDを製造販売後の安全対策に活用すれば、コスト削減が見込めるとのことです。

RWDを信頼して使用するためには、収集・標準化・実証・検証などのプロセス、レジストリなどの基盤整備が必要なことも認識されています。

厚労省は10月、医薬品の条件付き早期承認制度を導入しました。
早期に患者に革新的医薬品を届けるための制度ですが、患者に届くには、価格も大きな意味を持ちます。
今、国内外で疾患レジストリの整備やRWDの活用に着目した取り組みが進められています。

電子カルテやレセプトデータなどは、まだまだ標準化には至っていませんが、国や地域を越えてデータベースを共通化する考えが出始めていることも確かです。

そして、サミットにおいては薬剤耐性菌対応のための抗菌薬開発促進や偽造薬対策についても検討がされました。
モニタリングのスタンダード化も含め、グローバル化の動きはますます加速していくことでしょう。

一方、日本における再生医療周辺産業のマーケットは、まだまだ国内に限定されているので、市場規模拡大のためには海外へ進出していくことが重要です。

マーケット拡大だけではなく、日本の関連機関が、品質・安全性・有効性に関する規格や制度のグローバルスタダード化の旗振り役として、どんどん進めて欲しいと期待する声も増えています。

弊社が提供する「Carly」は、取違え防止・手順遵守を担保する工程管理機能を備えた再生医療の事業全体を支援するパッケージソフトウェアであり、再生医療周辺産業の一部です。

日本の再生医療のグローバル展開も支援しています。
日本語はもちろんのこと、世界中のどの言語にも対応可能です。
ログイン時に、言語を切り替える仕組みですので、一つのシステムで複数の言語を扱うことができるので、海外でもすぐにご利用いただけます。

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[ISO15189] 品質マニュアルについて

先日、がんゲノム中核病院の指定要件が大筋で決まったというニュースが流れました。

実際に患者さんと接して診療を行うがんゲノム連携拠点病院においても検体を中核病院ではない外部へ委託する場合、その委託先は、「遺伝子関連検査の品質・精度管理に係る基準」を満たさなければならないことが義務付けられます。

本年、2017年6月に交付された医療法等の一部を改正する法律(内閣提出第57号:平成29年6月14日交付)に関連し、第1回検体検査の精度管理等に関する検討会が2017年10月27日に開催されました。

この中で、遺伝子関連検査の品質・精度の確保については、2016年10月の「ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース」意見とりまとめにも言及し、諸外国と同様の水準を満たす遺伝子関連検査の品質・精度のあり方について検討を行うことが確認されました。

検体の分類についても、一次分類に「遺伝子関連検査・染色体検査」が新設されました。
二次分類についても、衛生検査所の登録基準として必要な機器・設備・備品や、ブランチラボにおいて備えるべき機器を定めるための詳細区分として見直す必要があるとし、新設の「遺伝子関連検査・染色体検査」においては、病理検体を用いる体細胞遺伝子検査以外について、病原体核酸検査、体細胞遺伝子検査、生殖細胞系列遺伝子検査、染色体検査が設定される案が提示されました。

病理検体を用いる体細胞遺伝子検査については、研究班報告書においては、以下の2つの案が示されました。
・病理学的検査から独立させるべきでないとする案
・独立させるべきであるという案

検討資料の中で下記のように記述されており、独立させる案に落ち着きそうです。

今後急速に臨床現場に普及すると考えられる遺伝子関連検査については、微生物学的検査、血液学的検査、病理学的検査の3分類にまたがり、遺伝子関連検査の特性に応じた合理的な構造設備基準を設けることが必要であるとして制度改正を行ったところであり、病理学的検査における体細胞遺伝子検査を含めて「遺伝子関連検査」の一つの分類として、衛生検査所における必要な検査機械器具、検査室の面積及び配置人員を同一の分類の中で整理することが合理的である

現在の検体検査の精度管理には、医療機関、委託業者(医療期間内、衛生検査所)ともに、品質・精度管理の基準について明確な法律上の規定がないため、「厚生労働省の定める基準」を作成することが急務です。

上記で引用した検討資料の記述に「今後急速に臨床現場に普及すると考えられる」と言及されていること、質保証の国際的基準であるISO15189等と資料に記述されていること等から鑑みると、「厚生労働省の定める基準」は、ISO15189またはその類似に決まることに、ほぼ間違いないと思われます。

ISO15189認定取得を目指すにあたって「品質マニュアル」を作成することが必要不可欠です。
ここでいう「品質マニュアル」は、品質マネジメントシステムの全体像と言い換えることができます。

つまり、検査を実施する方針・手順を定め、文書化し、(実行し、)決定どおりに実行されているかを確認し、実施結果を証拠として記録し、必要があれば方針・手順を見直し改善する方法を記述したものです。

品質マニュアルは、それを読むことによって各担当者が各々の責任と義務を理解し、ユーザーは提供するサービスの信頼性が判断できるもの。そして品質マニュアルに従って作業を実行することによりトレーサビリティが保証されるものであらねばなりません。

弊社が提供するソフトウェア「Carly」を用いた工程管理では、あらかじめプロトコールとして作業工程を雛形化します。実際に作業するときは、そのプロトコールから自動作成されるSOP(標準作業手順書)に従って進めますので上記の「品質マニュアルに従って作業を実行」が保証されます。

また作業を進める中で、結果情報が自動的に収集され、報告書が作成されますので、トレーサビリティも保証されるのです。

この機会にぜひ、卓越したトレーサビリティを体感して頂きたい。

詳しくはこちら

病院等の中で検体検査を行う場合の施設の構造設備等に関する基準の創設、衛生検査所等において行われる検体検査の精度の確保に関する基準の明確化の措置を講ずるほか、検体検査の分類は厚生労働省令で定めることを規定すること
<span class="su-quote-cite">内閣提出第57号(平成29年6月14日交付)より抜粋</span>