「プレシジョン・メディシン」と「遺伝子検査」

2017年10月2日に投稿した記事で「プレシジョン・メディシン(Precision Medicine)」について触れました。

「プレシジョン・メディシン」とは、疾患を引き起こす遺伝子変異に合わせて予防や治療をしていくという考え方で、がん治療の分野では、診断、検査、治療薬、情報支援の各面でプレシジョン・メディシンを後押しする技術開発が進んでいます。

がんの種類によって治療を決定するというよりは、個別化医療(対個人)から一歩進んだ最小単位の患者集団に最も合った治療薬を選択または開発を目指すというものです。

国立がん研究センター東病院を中心に2015年2月から「SCRUM-Japan」(Cancer Genome Screening Project for Individualized Medicine in Japan: 産学連携全国がんゲノムスクリーニング)と呼ばれるプレシジョン・メディシンのプロジェクトが進んでいます。
これは、全国約250医療機関と16社の製薬会社が参画し、産学が一体となって、日本のがん患者さんの遺伝子異常に合った治療薬や診断薬の開発を目指す、世界最先端のプロジェクトです。

SCRUM-Japanで現在実施されているプレシジョン診断は、主に「ドライバー遺伝子」と呼ばれるがんの増殖や進展に関わる特定の遺伝子異常をターゲットにした分子標的薬治療を想定しています。
つまり、患者ごとに異なる遺伝子異常(ドライバー遺伝子異常)を検出し、遺伝子変異のタイプを見極めた上で、効果が期待できる「分子標的薬」などを用いて治療を行うということです。

そのため、プレシジョン・メディシンを行うには、遺伝子検査(クリニカルシーケンス)が不可欠なのです。

AIの利用が叫ばれる昨今、日本でも遺伝子検査においてAIの利用について本格的な取り組みが始まっています。*1)

遺伝子検査が必要なのは、もちろんプレシジョン・メディシンだけではありません。
遺伝子検査会社の信頼への期待と要求は、ますます大きくなってきています。

 



*1)
「統合的がん医療システム(メディカルAI)」を開発することを目指した、国立がん研究センターとPreferred Networks(PFN)、産業技術総合研究所プロジェクトが、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)における「イノベーション創発に資する人工知能基盤技術の創出と統合化」研究領域に採択され、始動しています。

再生医療の周辺産業

「再生医療の市場規模」に関して2017年9月に投稿いたしました。

今回は、その記事の冒頭で紹介した、経済産業省に”2020年には世界規模で市場規模が1.1兆円になるだろう”予測された「再生医療周辺産業」にフォーカスを当ててみます。

再生医療では、概ね、①細胞などの採取、②細胞加工施設への搬送、③受入検査・保管、④材料(消耗品・機器等)の搬入・受入検査、⑤加工・調整、⑥加工物の包装・輸送、⑦保存、⑧品質検査、⑨医療機関への搬送を経て、患者への移植(投与)が行われています。

すなわち、消耗品やサービスを含め、様々な周辺産業がこれらを支えているのです。


さて、具体的に周辺産業には一体どんなものがあるのでしょうか?


①細胞などの採取には、注射器をはじめとする消耗品。

②⑨搬送のためには、低温搬送用容器等の輸送パッケージ、温度ロガー等の梱包品、及び温度管理・スケジュール遵守の行き届いた輸送サービスがあります。

③~⑧においては、製造する細胞のグレードにもよりますが、無菌性を担保する細胞加工施設(CPC)の設計、施工、保守、メンテナンスサービスや、消耗品・器材(培地、試薬等、培養フラスコ、培養バッグ、遠心チューブ、シャーレ、プレート、保管容器、冷凍・染色対応ラベル)、細胞培養・保管機器(冷蔵庫、-80℃冷凍庫、培養時の温度保持のためのインキュベータ、細胞の自動培養装置、遠心分離器、顕微鏡、セルプロセッシングアイソレーター等)、サービス(取違え防止・手順遵守を担保する工程管理システム、評価システム)、細胞評価機器(細胞の表面情報等を分析するフォローサイトメーター、画像解析による品質評価のための画像解析装置、検査機器)、その他の機器(専用ラベルプリンタ、安全キャビネット等)、環境モニタリングシステム(CPC/保管庫内の温度, 湿度, 風量, 換気回数, 気流, 差圧, HEPA, 浮遊微粒子, 微生物等を監視・記録するシステム)…

思いつくだけでもこれだけたくさんの周辺産業がありますね。

弊社が提供する再生医療の事業全体を支援するパッケージソフトウェア「Carly」も、再生医療周辺産業の一つです。

そして、他の周辺産業、温度ロガーや環境モニタリングシステム、ラベルプリンタ、電子顕微鏡などと連携し、逸脱管理や冷凍用ラベル出力、写真保存といった、様々な機能を提供しています。

未来の治療を厳格に築いて行く為、ぜひCarlyをご活用頂きたいです。

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がんゲノム中核病院の指定要件が大筋で決まりました!

2017年10月18日、「第10回がん診療提供体制のあり方に関する検討会(資料)」が厚生労働省から公開されました。

がん患者のゲノム(全遺伝情報)を調べて適した治療法を選ぶ最先端の医療「がんゲノム医療」を提供する病院の指定要件が大筋で決まりました。

「がんゲノム医療」を提供する病院は、「中核拠点病院」と「連携拠点病院」に2分して定義されています。

・中核拠点病院は、がんゲノム医療を牽引する高度な機能を求められており、主に遺伝子検査や人材育成、研究開発を担当します。

・連携拠点病院は、遺伝子検査の結果を受けて、直接患者の治療に携わる役割を担います。

中核拠点病院と連携拠点病院のそれぞれで詳細は異なりますが、下記のように指定要件が詳細レベルで合意されました。

(1)パネル検査を実施できる体制がある(外部機関との委託を含む)

(2)パネル検査結果の医学的解釈可能な専門家集団を有している(一部の診療領域について他機関との連携により対応することを含む)

(3) 遺伝性腫瘍等の患者に対して専門的な遺伝カウンセリングが可能である

(4)パネル検査等の対象者について一定数以上の症例を有している

(5) パネル検査結果や臨床情報等について、セキュリティが担保された適切な方法で収集・管理することができ、必要な情報については「がんゲノム情報管理センター」に登録する

(6)手術検体等生体試料を新鮮凍結保存可能な体制を有している

(7)先進医療、医師主導治験、国際共同治験も含めた臨床試験・治験等の実施について適切な体制を備えており、一定の実績を有している

(8)医療情報の利活用や治験情報の提供等について患者等にとって分かりやすくアクセスしやすい窓口を有している

(9)その他



なお、指定要件の再検討は2年後を目指して行うべきであるとしています。

ゲノム中核拠点病院の数については、12施設程度が妥当であるとされ、地域制のバランスも考慮して審査がおこなわれます。

年内に整備指針の通知を発出して中核拠点病院の公募を始め、来年3月末までに12施設を指定する予定です。

また、中核拠点病院の指定要件の合意に伴い、連携拠点病院の整備に関する指針も変更されるとの事です。そこで決定された指定要件も更に2年以内に見直しするそうです。

ゲノム(Geneome)とは、Gene(遺伝子)とすべて(-ome)から成る造語であり、DNAに含まれる遺伝子情報全体のことです。

がん細胞に生じた遺伝子の変異をゲノムレベルで特定することにより、その変異にあった診断、薬の投与や治療を行うゲノム医療は、大きな期待が寄せられています。

HACCPをご存知ですか?

HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point=ハサップ)をご存知ですか?

危害分析重要管理点

HACCPについて、厚労省のHPでは、以下の様に説明されています。

“HACCP とは、食品の製造・加工工程のあらゆる段階で発生するおそれのある微生物汚染等の危害をあらかじめ分析( Hazard Analysis ) し、その結果に基づいて、製造工程のどの段階でどのような対策を講じればより安全な製品を得ることができるかという重要管理点( Critical Control Point ) を定め、これを連続的に監視することにより製品の安全を確保する衛生管理の手法です。

この手法は、国連の国連食糧農業機関( FAO )と世界保健機関( WHO )の合同機関である食品規格 (コーデックス) 委員会から発表され,各国にその採用を推奨している国際的に認められたものです。”

2016年に、食品関連の企業に対して段階的な義務化が報道されました。

しかし、未だに具体的な要件の部分は確定されていません。
飲食店だけを見ても、業態は多岐にわたっているため、共通のガイドラインを作成するには無理があるようです。

法案の成立・施行はまだまだ先のことと思っていませんか?
いつから義務化されるのか?2018年に国会提出、2020年に施行だと予想されています。

もう直ぐです。

厚生省では、HACCP方式と従来の製造方法の違いを次のように説明しています。

厚生省HPより抜粋
“HACCP方式と従来の製造方法の違いは

従来の抜取検査による衛生管理に比べ、より効果的に問題のある製品の出荷を未然に防ぐことが可能となるとともに、原因の追及を容易にすることが可能となるものです。
HACCPを導入した施設においては、必要な教育・訓練を受けた従業員によって、定められた手順や方法が日常の製造過程において遵守されることが 不可欠です。”

つまり、保管冷蔵庫の温度、材料の消費期限等など、食材の保管についての記録・保管を継続的に行うことにより食品の安全を確保することが目的だということです。

上述のように、ルールやガイドラインが明確でないとしても食中毒や異物混入を防ぐため、あらかじめ危険が起こりうる手順を予測し、継続的に監視・記録することは、製造業者のみならず、飲食店にとっても非常に重要です。

チェックポイントを増やしていくことにより、危害要因の除去、意識していなかった危害要因の発見を通し、より安全な「食」を実現するということです。

飲食店でも、品質について厳しい管理を求められる時代です。

医療現場はもっとシビアです。

「今できること」やってみませんか? Carlyで。




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ゲノム創薬の新時代到来!

2017年8月30日、Kymriah(キムリア)が米国食品医薬品局(FDA)から正式承認されました。
個別医療(ゲノム創薬)の新時代の到来です。

Kymriah(キムリア)は、ノバルティスファーマ株式会社の海外における製品名でCTL019と呼ばれる患者さん自身のT細胞の単回投与により行うがん治療法です。
難治性または2回以上の再発を認めるB細胞性急性リンパ芽球性白血病(ALL)の25歳以下の患者さんを対象とする初めてのキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)医療です。
米国食品医薬品局(FDA)は、このKymriah(キムリア)の静脈注入用懸濁液を承認したことを発表しました。
FDAが初めて承認する遺伝子導入に基づく治療法だとプレスリリースされました。

米国では、「初の遺伝子療法」と呼ばれているようです。
キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)とは、キメラ抗原受容体(CAR)を用いた遺伝子改変T細胞療法です。
実際の進め方は、まず患者から血液を採取し、そのT細胞に遺伝子改変を加え(=CARの実装)、その遺伝子改変T細胞を患者の体内に戻すというものです。

Kymriah(キムリア)の価格は47万5,000ドル、約5,335万円と非常に高額ですが、アナリストの予想を下回ったとのことです。

がん免疫薬「オブジーボ」は当初1ヵ月300万円(1年で3,600万円)でした。これを継続的に投与しなければなりません。

一度の投与で治療される、Kymriah(キムリア)のこの価格を、皆様はどの様に考えるでしょうか?

キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)の開発には、すでに多くの企業が参入しており、日本においても、第一三共が今年1月に「Kite社とのがん領域細胞治療薬パイプラインに関する包括提携」をプレスリリースしています。

ちなみに、この包括提携の元で開発するKTE-C19は、CD19と呼ばれる悪性リンパ腫細胞の表面に発現している抗原を標的とする細胞治療薬(キメラ抗原受容体T細胞:CAR-T)で、静脈内投与により再発性または難治性の悪性リンパ腫に対する治療効果が期待されています。

悪性腫瘍細胞を攻撃する代表的なものとしては、NK(ナチュラルキラー)細胞、Tリンパ球(細胞障害性T細胞)、樹状細胞等があります。
蛇足ながら、昨今、一部の人々による臍帯血の問題等が世間を騒がせていますが、それによってすべての免疫療法が間違いという風潮にはあまり賛成できません。

患者から血液を採取し、培養または改変し、それを患者に再び戻すという治療がたくさんの人々を治癒へと導く時代がくることを信じたいものです。
当社が提供するトータルソリューションシステム「Carly」を導入し、正しい手順の踏襲と問題発見後の原因分析にご活用頂きたいです。

見える化・分かる化を実現します。

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