検体の質は検査結果の質である:検体取扱い規程公表

過去に何度か取り上げた「がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会」に関する記事でも言及した遺伝子パネル検査は、個々の患者に最も効果があり、副作用が少ないと期待される治療を選ぶため「精密医療:precision medicine」に有効だと、世界中で注目されています。

各施設でバイオバンクを整備・運営しようとする動きが盛んになってきています。しかしながら、研究者やバイオバンク実務者には、適切に採取・保管されなかったために質のばらつきの多い検体で解析せざるを得なかったり、どうやったら質の高い検体をそろえてよいかに悩んでいたりするのが実情です。

こうした中、2017年9月、日本病理学会が、「ゲノム診療用病理組織検体取扱い規程(診療用規程)」を公開しました。
2016年3月に策定された『ゲノム研究用病理組織検体取扱い規程(研究用規程)』に続いて策定されたもので、今後日常診療下での実施が想定されるがんゲノム診断での使用に耐えうる、病理組織・細胞検体に関する新要領規程です。

研究用規程は、以下の3部で構成されています。
・病理検体の適切な採取部位
・凍結検体の採取・保管・移送
・パラフィン標本の作製・保管

診療用規程では、「診療における病理組織・細胞検体の現状」に加え、「ホルマリン固定パラフィン包埋組織・細胞検体の適切な取り扱い」を示しています。

「診療における病理組織・細胞検体の現状」において、日本病理学会は下記のように断言しています。

分⼦診断を⾼い精度で⾏うためには,検査の成否を左右する検体の品質管理は極めて重要である.治療選択に直結しているコンパニオン診断において,不適切な処理が⾏われた検体の使⽤が原因で検査が実施できない,あるいは誤った結果がもたらされた場合は,患者の治療機会の損失につながり,⼤きな不利益を被ることとなる。
多遺伝⼦の検査情報を保証しなければならないゲノム診療においてはパネル検査など複数遺伝⼦を対象とするため、その結果の質を保証するためには、現⾏の単⼀遺伝⼦検査以上に、より厳格な検体の品質管理が求められることに⼗分留意しなければならない。

なお、日本臨床腫瘍学会/日本癌治療学会/日本癌学会の3学会の合同グループも、同じように細密治療の流れに対応して、2017年10月に「次世代シーケンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス」を発表しました。

この中でも、以下のように規定されています。

「遺伝子パネル検査に供する検体の品質管理については、一般社団法人日本病理学会ゲノム診療用病理組織検体取扱い規程等を参考に、適切に品質管理された検体を用いる。

厳格な検体の品質管理では、採取後の速やかな固定と適切な保管が必須条件です。

それを実現するのが、Carlyです。

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先進医療と患者負担を考える

健保連が行う平成28年度の『高額医療交付金交付事業』に申請された医療費のうち、1ヵ月の医療費が1,000万円以上の件数は、前年度より123件増加(対前年度比34.1%増)の484件で過去最多となり、初めて400件を超えた。

<span class="su-quote-cite"><a href="http://www.kenporen.com/include/press/2017/20170908_2.pdf" target="_blank">健康保険組合から「平成28年度 高額レセプト上位の概要」が発表されました。</a></span>

1000万円以上高額レセプトの件数が年々増えています。

寿命が長くなり、高額療養をうける人が増えていることだけでなく、保険適用の治療法が増えたことが増加の理由ではないでしょうか?

高額医療交付金は、財源である財政調整事業拠出金収入の範囲内で交付決定を行うものであり、申請金額が財源を超えた場合、財源不足分を調整するための交付率を算出する方式となっています。

今まで保険適用外であった治療に保険が適用されることになれば、その治療を受けている患者にとっては自己負担が劇的に減ることになります。今までは費用が高額なため治療が受けられなかった患者にもその治療が受けられる可能性が出てくるのです。

一方、財源が増えない場合、全体として高額医療の適用金額が増えれば増えるだけ、財源不足の調整のために交付率がどんどん下がっていき、今まで保険適用だった治療を受ける方にとっては一人当たりの自己負担額が増加してしまいます。

検査費用に保険が適用されるかどうかも患者の負担に大きな影響を及ぼします。

先日公表された「がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会(報告書案)」では、がんゲノム医療の制度・費用面について、患者の負担軽減のため、検査費を保険診療として実施すると明記しています。
しかし、まだ制度の詳細は不明です。
もし他の先進医療と同じように保険外併用療養の枠組みでの利用となれば、技術料部分は全額自己負担となり、患者の負担額が高額になってしまいます。

民間保険に関しては、日本再生医療学会は、自由診療で行う再生医療を対象とする新たな保険制度「再生医療サポート保険(自由診療)」を創設しました。
細胞の採取や注入等再生医療等の治療により健康被害が起こった場合、医師に過失がない場合でも、健康被害の程度に応じての補償を備えたものです。
患者側が安心して再生医療を受けられる体制作りの一環としてとらえることができます。

近頃は、インターネット等、免疫細胞療法に特化した少額保険等も目にするようになってきました。
これらは、免疫療法に限らず、これからもどんどん増えてくるであろう最先端の治療を、患者が自由にいち早く利用できるよう、まとまった保障が必要であるというコンセプトのもとに開発された保険商品です。

このように、社会の仕組みは、患者が安心して高額な治療を受けられる体制が整うように進化しています。

今、免疫療法を考える

国立がんセンターのWebサイトで、「免疫療法 まず、知っておきたいこと」が紹介されています。

私たちの体は、免疫によってがん細胞を排除しているのですが、免疫が弱かったり、がん細胞が免疫にブレーキを掛けたりすることにより、がん細胞を異物として排除しきれないことがあります。
私たちの体は、免疫によってがん細胞を排除しているのですが、免疫が弱かったり、がん細胞が免疫にブレーキを掛けたりすることにより、がん細胞を異物として排除しきれないことがあります。
免疫療法は、免疫本来の力を回復させることによってがんを治療する方法で、近年注目されており、研究が進められています。
これまでの研究では、残念ながらほとんどの免疫療法では有効性(治療効果)が認められていません。現在、臨床での研究で効果が明らかにされている免疫療法は、「がん細胞が免疫にブレーキをかける」仕組みに働きかける免疫チェックポイント阻害剤などの一部の薬に限られ、治療効果が認められるがんの種類も今はまだ限られています。
「免疫療法(広義)」は発展途上の治療法で、有効性(治療効果)が科学的に証明されていない免疫療法も多数あります。効果が明らかになっていない治療法は、保険診療として認められていないことから、患者が全額治療費を支払う自由診療として行っている医療施設もあります。
患者さんやご家族が、標準治療が使えなくなるなど治療の選択に困り、自由診療でのがん免疫療法(広義)を選択肢として考えるときには、その選択をする前に公的制度に基づく臨床試験、治験などの研究段階の医療を熟知した医師にセカンドオピニオンを求めることをお勧めします。

日本再生医療学会のWebサイトでも、「日本再生医療学会より、国民の皆様へのお知らせとお願い」で、以下のように注意を喚起しています。

下記のよう場合には、勧められても安易に受けることはせず、事前に適法性と安全性・有効性を十分に確認することをお願いいたします。

1 さい帯血※や脂肪細胞のように、他人から採取した細胞を移植する行為

1 日本再生医療学会の認定医が勤務していない機関での細胞を移植する行為

1 その他、安全性確保法に基づいて実施していることが確認できない行為

これらの注意喚起は、安全確保がされている免疫療法かどうかに対するものであり、免疫療法そのものに対する疑義ではないということを意識していただきたいです。

そして、適切な免疫療法を安心して選択できるように、セカンドオピニオンを得られ医師の紹介も含め、正確な情報を患者さんやご家族が得られる「仕組み」が必要だと思います。

研究が進むにつれ、安全性も高く有効な治療法がどんどん増えてきます。対応できるがん種類も拡がってくるでしょう。

海外では、手術、抗がん剤、放射線、に並ぶ、第4の治療法として免疫治療は認識されているところも多いです。

日本でも、第4の治療法として認知されているところに、今年の夏、逆風が吹きました。

厚生省が免疫細胞の無許可加工をしていた加工施設及び医療機関の存在を明らかにしたのです。

このことが世間に与えた影響は非常に大きいです。
正規に許可された加工施設か否かにかかわらず、免疫療法全体に疑いの目が向けられるようになったからです。

「Carlyからお役立ち情報」でも何度か取り上げた「がん治療拠点病院」に対しても、厚生省は全国で434の病院に対して免疫療法の実態調査を行うとしています。
しかし、この「がん治療拠点病院」は、許可も受けており、設備や体制が整っているので問題性は低いのではないでしょうか?

それよりも、設備や体制がそれほど整っていない医療機関で免疫療法を行うところに問題が起こり得えます。むしろ、実態調査は、「がん治療拠点病院」よりも、これらの医療機関に対して行う必要があり、それが有益であるはずです。

また、現在は保険診療の対象外となっている治療法の中にも、今後は保険対象になる治療法もあるでしょう。これらを普及していくためにも、国としての「仕組み」の必要性を感じます。

そして、医療機関の実態調査により「不適切な治療」を明らかにして撲滅し、患者さんやご家族が「正確な情報を得られる仕組み」によって十分に治療法を理解した上で、適切な選択肢を得られる社会が理想です。

今更聞けない「再生医療って何?」

最近、よく耳にするようになった「再生医療」というキーワード。
なんとなくのイメージはあるが、意味までしっかり理解している人ばかりではないと思います。
そこで、「Carlyからお役立ち情報」として「再生医療」について解説致します。

「再生医療」という言葉について、厚生労働省は下記のように定義しています。

■生きた細胞を組み込んだ機器等を患者の体内に移植等すること又は内在性幹細胞を細胞増殖分化因子により活性化/分化させることにより、損傷した臓器や組織の自己再生能力を活性化することで失われた機能を回復させる医療(広義)。

■患者の体外で人工的に培養した幹細胞等を、患者の体内に移植等することで、損傷した臓器や組織を再生し、失われた人体機能を回復させる医療。

■患者の体外において幹細胞等から人工的に構築した組織を、患者の体内に移植等することで、損傷した臓器や組織を再生し、失われた人体機能を回復させる医療。

つまり、人(生物)の再生能力を活かした医療ということです。

では、具体的にはどんなものなのなのでしょうか?
いくつか例を挙げてみましょう。

人工多能性幹細胞(iPS細胞)(Induced Pluripotent Stem Cell:iPS cell)によるもの

人工多能性幹細胞(iPS細胞)とは、体のあらゆる組織や細胞に分化可能な多機能生を持った細胞株のことで、拒絶反応のない移植細胞として利用することもでき、再生医療の分野では大きく注目されています。
2006 年に京都大学の山中伸弥教授らのグループによって世界で初めて作成されました。
ニュースでも良く取り上げられているので、耳にすることが多いのではないでしょうか?
2007年にヒトでも同様の細胞を作製することに成功しています。

しかし、分化誘導期間(多能性幹細胞であるiPS細胞から求める細胞を作製する期間)が長いこと、分化効率が向上しないことによる移植後のがん化の危険性があること等、課題が残っています。

2017年10月、「日本人グループにより3つの小分子化合物を用いてヒトiPS細胞の分化能力を促進する基盤技術が開発された」というニュースが国際幹細胞学会(ISSCR)の公式ジャーナルである「Stem Cell Reports」のオンライン版に掲載されました。

この技術によって、分化誘導期間の短縮と分化効率の上昇により、これまで多大な労力・時間を要していた厳正な細胞株選別が不要になり、iPS細胞を用いた病態研究・創薬スクリーニングの効率を大きく上昇させることが期待できます。
また、誘導効率の上昇により、移植後のがん化の危険性も減少することが期待されています。


胚性幹細胞(ES細胞)(Embryonic Stem Cells)によるもの

胚性幹細胞(ES細胞)とは、iPS細胞と同様に、体のあらゆる組織や細胞に分化可能な多機能生を持った細胞株です。
iPS細胞との違いは、体細胞ではなく、肺の内部細胞塊を用いて作製されるという点です。
胚様体には各成熟細胞や組織の基になる未成熟な細胞が豊富に混在していることから万能細胞ともいわれています。

1981年にイギリスのエヴァンスがマウスES細胞を樹立したのがその始まりです。
ヒトES細胞は、1998年に作製されました。

ES細胞を作るには卵細胞が必要なのですが、ES細胞の作製効率が非常に低いため、多くの卵細胞が必要となるという倫理上の問題、移植患者とは遺伝子が異なるため拒絶反応が起こる可能性があるという医療上の問題が指摘されてきました。

2017年9月、マウスのES細胞から卵子の元になる「卵母細胞」を作ることに、日本人研究グループが成功したと国際科学誌で発表されました。
これによって従来必要だった卵巣細胞を使用せずに卵子を作る可能性が出ています。


間葉系幹細胞(MSC)(Mesenchymal Stem Cell)によるもの

間葉系幹細胞(MSC)とは、中胚葉性組織(間葉)に由来する体性幹細胞であり骨芽細胞,脂肪細胞,筋細胞,軟骨細胞など間葉性に属する細胞への分化能を有します。

1991年にアメリカのカプランによって定義されました。

現在、臨床応用のための源として、骨髄が用いられています。
iPS細胞やES細胞のようにどんな細胞にも分化することはできませんが、免疫抑制作用も併せ持つことからがん化の危険性が低く安全と言われています。
最近では神経や腎臓、膵臓(すいぞう)などにも分化できることが分かってきました。
他家細胞(他人の細胞)による膝軟骨の再生医療の治験が2017年9月に始まったというニュースが流れました。


これら細胞研究の進歩によって、新たな治療法の確立や治療の臨床応用が実現し、再生医療が広く普及することが期待されています。

再生医療のグローバルスタンダード化が進んでいます

2017年10月、京都市で「薬事規制当局サミット」(Summit of Heads of Medicines Regulatory Agencies)と「薬事規制当局国際連携組織」(ICMRA:International Coalition of Medicines Regulatory Authorities)の会合が開かれました。

2006年に始まった同サミットは毎年開催されており、日本では初めての開催です。

一方ICMRAは2012年から活動を開始し、国際連携プロジェクトを実施してきました。来年の2018年からは両者が統合され、ICMRAサミットとして開催される予定です。

それぞれのサミットや組織の目的は以下の通りです。

薬事規制当局サミット:
医薬品・医療機器制度の在り方、審査手続き、市販後調査等の課題について意見交換する場。

薬事規制当局国際連携組織:
国際活動の優先順位や活動の重複による無駄の排除等を議論する場。

つまり、各国でも規制が整っていない今、最初からグローバルスタンダードを作ろうという動きです。

今年は、日、米、欧、中、ブラジルなど30を越える国と地域の薬事規制当局の責任者が参加し、医薬品・医療機器・再生医療等のイノベーションを主要テーマとし、薬事規制の在り方、審査手続き、市販後調査、製品の安定供給、危機管理等の様々な課題について意見交換が行われ、再生医療等製品に関する規制の調整を各国間で進めることなどが決まりました。

また、リアルワールドデータ(RWD: Real World Data)についても、収集、標準化、エビデンスへの利用等につきさらなる検討が必要だという議論もありました。

リアルワールドデータ(RWD)とは、実診療行為に基づくデータ、またはそのデータベースのことで、レセプト(診療報酬請求)や、DPC(包括医療費請求)データ、診療録(電子カルテ)、健診データなどが扱われています。

これまで新薬承認に際しては、大規模な患者集団を対象としたランダム化比較試験(RCT)が行われるのが常でしたが、信頼性が高い一方で、時間もコストもかかるため、価格に影響を与えていました。

その点、RWDを製造販売後の安全対策に活用すれば、コスト削減が見込めるとのことです。

RWDを信頼して使用するためには、収集・標準化・実証・検証などのプロセス、レジストリなどの基盤整備が必要なことも認識されています。

厚労省は10月、医薬品の条件付き早期承認制度を導入しました。
早期に患者に革新的医薬品を届けるための制度ですが、患者に届くには、価格も大きな意味を持ちます。
今、国内外で疾患レジストリの整備やRWDの活用に着目した取り組みが進められています。

電子カルテやレセプトデータなどは、まだまだ標準化には至っていませんが、国や地域を越えてデータベースを共通化する考えが出始めていることも確かです。

そして、サミットにおいては薬剤耐性菌対応のための抗菌薬開発促進や偽造薬対策についても検討がされました。
モニタリングのスタンダード化も含め、グローバル化の動きはますます加速していくことでしょう。

一方、日本における再生医療周辺産業のマーケットは、まだまだ国内に限定されているので、市場規模拡大のためには海外へ進出していくことが重要です。

マーケット拡大だけではなく、日本の関連機関が、品質・安全性・有効性に関する規格や制度のグローバルスタダード化の旗振り役として、どんどん進めて欲しいと期待する声も増えています。

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